拡大審判部のG2/21決定「もっともらしさ」: EPOに対し進歩性を論議する際の出願後データへの依存について

05/05/2023

拡大審判部 (EBA) の「もっともらしさ」 (Plausibility) の決定 (G 2/21) が2023年3月23日に発行されました。この拡大審判部への付託では、技術的効果の証明が出願後に提出された証拠にのみ基づく場合、進歩性の論議においてこうした技術的効果に依存することができるかを明確にすることを目的としています。また、この評価においてもっともらしさ(plausibility) が果たす役割についても検討しています。

EBAは、出願後データを認めるか否かの決定において、出願後データを完全に除外することと、「もっともらしさ」を考慮しないという2つの両極端の考えの中間にあるアプローチを検討するよう求められました。

ここで付託された質問は以下の通りです。

1.自由心証主義(例:G3/97 理由5およびG1/12 理由31参照)の例外として、効果の証明が出願後のデータのみに依存しているという理由で、出願後のデータを無視することが認められるか。

2.質問の答えが「はい」(効果の証明が出願後のデータのみに依存する場合には出願後データを無視すべきである)の場合、審判請求中の特許出願における情報または共有する一般知識に基づき、審判請求中の特許出願の提出日において当業者が効果がもっともらしい (plausible)と判断できる場合(ab initio plausibility)、出願後のデータを考慮することができるか。

3.最初の質問の答えが「はい」(効果の証明が出願後のデータのみに依存する場合には出願後のデータを無視すべきである)の場合、審判請求中の特許出願における情報または共有する一般知識に基づき、審判請求中の特許出願の提出日において当業者が効果がもっともらしくない (implausible)と判断する理由がない場合 (ab initio implausibility)、出願後のデータを考慮することができるか。

既存の慣習と判例法 

審判部の確立された法理学によると、進歩性の評価は、有効な特許出願日にて、特許における情報ならびに当業者が利用できる共有する一般知識に基づいて行われます。

客観的な技術的課題は、クレームされた発明の技術的特徴に直接的または因果的に関係した効果から派生するものである必要があります。問題の出願内容を考慮した後に、当業者が自由に使用できなかった追加情報をその効果が必要としていた場合、その効果を技術的課題の形成に有効に使用することはできません。

客観的な技術的課題を決定するためには、クレームされた発明により達成される技術的成果および効果は、それ以前の最も近い先行技術と比較して評価される必要があります。審判部の確立された判例法により、クレームされた発明の主張されている優位性の実現に成功していることを適切に示すことは、特許出願者または特許所有者に委ねられています。

また、EPOに対する手続きは証拠の自由心証主義に従って実施されることが確立されています。この主義は民法体系のあるさまざまなEPC契約国において受け入れられています。

この主義に従い、その性質にかかわらず、あらゆる種類の証拠が受け入れられます(T 0482/89 および T 0558/95を参照)。

決定

質問 1の評価において、EBAは、EPCの下における手続きにおいて関係者が提出した証拠手段を評価する際には、それがEPOの事務管理部門であるか審判部であるかに関わらず、自由心証主義は手続法および実体法の普遍的に適用可能な原則として適格であると結論付けました。そのため、クレームされた主題の進歩性の確認のために、依存する技術的効果を証明するために特許出願者または特許所有者が提出した証拠を、効果が依存するかかる証拠が審判請求中の特許の出願日前に公開されておらず、出願日以降に提出されたことのみを理由として無視することはできません。

興味深いことに、EBAは、出願後の証拠への依存範囲は、開示の十分性(EPC 83条)では、進歩性と比較し(EPC 56条)、かなり狭くなることも強調しています。

EBAは、医薬品の特許に特に言及して、発明の開示に当業者が実施するのに十分な明確性と完全性があるという要件を満たすためには、クレームされた治療効果の証拠は提出した出願で提供される必要があり、特に、提出された出願に実験データがない場合は、当業者にとっては治療効果が得られたと信用する(credible)ことはできないであろう(”plausible”という言葉を使用していない)と述べています。かかる事例における十分性の欠如は出願後の証拠により是正することはできません。

最終的に、EBAは次のように結論付けています:

クレームされた主題の進歩性の確認のために、依存すると主張される技術的効果を証明するために特許出願者または特許所有者が提出した証拠は、効果が依存するかかる証拠が審判請求中の特許の出願日前に公開されておらず、出願日以降に提出されていることのみを理由として無視することはできない。

ただし…

特許出願者または特許所有者は、当業者が共有する一般知識を念頭に置き、当初提出された出願に基づいて、かかる効果が技術的教示により網羅され、当初開示された同じ発明により具現化されていると考える場合[のみ]、[主張された]進歩性の技術的効果に依存することができる。

主張された技術効果に依存できるための関連基準では、当事者が、共有する一般知識を念頭に置き、出願時にクレームされた発明の技術的教示として当初提出された出願から理解するであろうという評価が必要とされます。依拠する技術効果は、後の段階においても、提出された出願の技術的教示により網羅され、同じ発明を具現化している必要があります。主張された技術的効果は、後の段階で表れたものであっても、クレームされた発明の性質を変更するものであってはなりません。

結論

進歩性の評価における出願後データの役割について明確さが得られると期待していた方は、G2/21に失望する可能性が高いと思われます。 決定は、抽象的な基準である「もっともらしさ」 (plausibility) を、別の抽象的基準である「技術的教示により網羅され、当初開示された同じ発明により具現化されている」(encompassed by the technical teaching and embodied by the same originally disclosed invention)に単に置き換えていると主張しているものであると考えられます。

一方で、EBAは、出願後データを十分性または進歩性の裏付けに使用できるかについて、2つの評価基準を(定義なしに)特定しています。  十分性については、技術的効果は「信じられる」(credible)ものでなくてはならないが、進歩性については「技術的教示により網羅され、当初開示された同じ発明により具現化されている」「のみ」である必要があるとしています。

明らかなことは、G2/21は解決するのと同じ程度多くの質問を提起しているということであり、進歩性(および十分性)を裏付けるには、どの時点で出願後の証拠に依存できるかという課題について、引き続き熱い論議が交わされることが考えられます。

欧州特許庁の拡大審判部「G2/21の決定」のリンクはこちらです。

この記事は一般情報提供のみの目的で掲載されています。その内容は何らかの主題に関する法律の記述ではなく、またアドバイスを構成するものでもありません。これについて何らかの行動を起こす前に、Reddie & Grose LLP までご連絡の上、アドバイスを求めてください。