欧州意匠保護制度の改正について

01/05/2025

予期されていたとおり、欧州連合知的財産庁(European Union Intellectual Property Office, EUIPO)から新たな規則および指令が公布され、これにより欧州連合での意匠保護制度が改正されました。今回の改正は、欧州の意匠制度をデジタル時代に合ったものとし、かつ意匠保護を現代的で、明確で、強力なものとすることを目的として行われました。新たな規則は2025年5月1日から適用されますが、一部の規定については2026年7月に発効することになっています。各EU加盟国はこの新たな指令を2027年12月9日までに採択する必要があり、これにより国レベルでの意匠権の枠組みの調和が達成されるでしょう。

名称

登録共同体意匠(Registered Community Design, RCD)は今後、登録EU意匠(Registered European Union Design, REUD)と呼ばれることになります。非登録共同体意匠(Unregistered Community Design, UCD)は今後、非登録EU意匠(Unregistered EU Design, UEUD)と呼ばれることになります。

出願

これまでは、出願に含まれる意匠について指定される全ての製品が、ロカルノ分類における単一のクラスに属する必要がありました。今回の改正では、この「クラスの単一性」要件が撤廃されました。これにより、単一の出願に異なるロカルノ・クラスにわたる複数の意匠を含めることができるようになりました。

単一の出願に含めることができる意匠の数は、最大50までとされました。

二次法の整備が必要となる一部の規定については、2026年7月1日に発効することになっています。例えば、「意匠」の定義が拡張されました。アニメーションも「意匠」として認められるようになりました。これにより、ビデオゲームや映画などのメディアからのシーケンスの保護が可能となりました。現在、欧州意匠では図面の数が最大7図までとされていますが、この制限も緩和されます(最大何枚まで認められるかは二次法で定められます)。

さらに、デジタル商品の保護を可能とする「製品」の定義の拡張も、2026年7月1日に発効します。加えて今回の改正では、以前は不明確だった特定の品目について、保護を受けうることが確認されました。これには、物品のセット(チェスの駒など)、環境を形成するための物品の空間的配置(店舗のレイアウトなど)、シンボル、ロゴ、表面模様、およびグラフィカルユーザーインターフェースなどが含まれます。

料金

出願のための料金体系が単純化されました。別々に支払う必要のあった登録料と公告料については、この度、統合されました。単一の意匠出願にかかる料金は据え置かれましたが、複数意匠出願の料金は変更されています。これまでは、追加の意匠について9件までは、それぞれ(登録料と公告料を合わせて)175ユーロかかり、それ以降の意匠は80ユーロとなっていました。今後は、追加意匠の料金は、件数にかかわらず125ユーロとなりました。その結果、新制度では、20件未満の意匠を対象とする出願の場合には、以前より料金が安くなります。

登録意匠の出願人は、出願時に、公告を30か月延期するよう申請することができます。これにより、企業は、関連する製品を一般発売する前に、意匠出願を行うことが可能となっています。公告の延期のためには、延期期間の終了時に最終手数料(final fee)が必要でした。支払わない場合には、出願は放棄されることになっていました。出願人によっては、意匠を公告せずに放棄するために、意図的にこの期日までに支払いを行わない場合もありました。たとえば、製品の一般発売が遅れ、意匠出願から30か月以上後になってしまった場合などです。この最終手数料は不要となりました。そのため、明示的に放棄しない限り、延期期間の終了とともに、自動的に意匠が公告されることになります。

意匠登録は、5年ごとに更新することができ、最大で出願日から25年間維持することができます。この更新料の計算方法が変更されました。更新期限は、これまでは出願日の応当日のある月の月末でしたが、今後は出願日の応当日となります。たとえば、旧制度では、1月2日に行われた出願の更新期限は1月31日でした。今後は、更新期限は1月2日となります。意匠権者が自ら更新を管理する場合は、内部リマインダを更新する必要があるかもしれません。

また、更新料が大幅に引き上げられました。たとえば、4回目の更新料は意匠ごとに180ユーロから700ユーロに引き上げられました。更新期限が迫っており、2025年5月1日より前に更新を申請できる意匠については、より低額で更新するため、早めに更新手続きを行うことをお勧めします。

侵害

登録意匠の意匠権者は、意匠を記録した任意の媒体またはソフトウェアの作成、ダウンロード、コピー、共有、または他者への配布に対して侵害を主張する権利を有することになりました。この権利は、意匠権者の同意なしに意匠の3Dプリントが行われることを防ぐことを意図したものです。さらに、登録意匠の意匠権者は、模倣品に対し、その模倣品の市場での自由流通が解放されていない限りは、EUを通過することを差し止めることもできるようになりました。

今回の改正では、意匠権者の排他的権利に以下の2つの制限が加えられました。すなわち、意匠権者の製品として識別または参照するための意匠の使用、およびコメント、批評、またはパロディのための意匠の使用は、登録意匠を侵害する行為とはならなくなりました。ただし、その使用が公正な取引慣行に即していない場合、または意匠の通常の利用を不当に阻害する場合には、これらの制限は適用されません。

今回の改正では、製品が意匠登録によって保護されていることを示すために使用できる新しい意匠表示として、文字「D」を円で囲んだマーク(Ⓓ)も導入されました。これまでは、登録意匠の権利者は文字「R」を円で囲んだマークを使用できることになっていましたが、これは商標登録の表示と混同される可能性がありました。

修理条項

旧制度では経過的な「修理条項」が設けられており、RCDにのみ適用されていました。この条項は恒久的なものとなりました。

「修理条項」により、登録意匠は、複雑な製品を構成する部品(例えば車のバンパー)によっては、その部品が複雑な製品の元の外観を復元する修理のためにのみ用いられる場合には、侵害されないことになります。この例外の基準を満たすには、認可されていないスペアパーツの販売者は、製造者についての情報を消費者に伝え、その部品が純正品ではないことを知らせることが必要です。

今回の新たな指令により、当該規定が各EU加盟国の国内登録にも適用されることになりました。しかしながら、この規定の実施には8年の移行期間が設けられています。そのため、2032年12月9日までは、複雑な製品を構成する部品を対象とする既存の国内意匠の保護が継続されます。それまでは引き続き、純正品のスペアパーツの製造者である自動車メーカーは、国内裁判所において不認可の販売者に対して侵害訴訟を提起できます。

詳細については、以下のEUIPOのウエブサイトをご参照ください。

今回の欧州意匠制度の改正、または弊所の欧州意匠出願の料金について詳しい情報をお求めでしたら、お問い合わせください。